早ければ2020年代後半に日本にもできる「IR(統合型リゾート)」。なんと言っても目玉の施設は「カジノ」ではないでしょうか?
いよいよ日本にもカジノが遊べる施設ができる!と盛り上がりを見せる一方、治安の悪化、ギャンブル依存症、経済への影響などなど考えるべき問題は沢山あります。
このページでは、IR=カジノリゾートが日本に誕生した時のメリット・デメリットについて解説します。
また、現在大きな成功を収めているシンガポールのIRを例に、どのような対策を取ることでIRが成功に近付くのか、について詳しく見ていくことにします。
この記事のまとめ
- IR(統合型リゾート)ができることで、日本経済の活性化を狙う
- ギャンブル依存や反社会的勢力への対策や、地域産業との協力が必要
- 世界的に成功しているシンガポールを例に見ると、IR法案を成功させるために必要な課題がたくさんある
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カジノ法案(IR)とは
IR法案を「日本にカジノを作る法律」と考えている方も少なくないかもしれませんが、それだと今から話す内容にピンと来ないと思いますので、まずIR法案(カジノ法案)とは何か?について解説します。
カジノ法案の正式名称は、「統合型リゾート(IR)整備推進法案」です。
IRとはそもそも「Integrated Resort」、つまり「統合型リゾート」のことを指します。ホテルや劇場、国際会議場や展示会場などのMICE施設、ショッピングモール、レストラン、映画館などが一体となったリゾート地のことで、この施設の中の一つにカジノがあります。
国際的なイベントを開催できる施設に乏しい日本において、カジノ施設で収益を賄いつつ、来日者を増やし国際的な地位を向上させる… このような目的で作られる観光リゾートが「IR」となります。
日本におけるカジノ法案(IR)の現状
日本にIRができるまでの流れは以下の通りとなります。
IR推進法成立
2016年、「統合型リゾート(IR)整備推進法案」が成立し、本格的に日本にカジノリゾートを設置する動きが始まりました。
IR推進本部設置
2017年、「特定複合観光施設区域整備推進本部(通称:IR推進本部)」が内閣に設置され、IR誘致を実現するための動きがより活発化することになりました。
IR実施法成立
2018年、「統合型リゾート(IR)整備法(通称:IR実施法)」が成立しました。この法律の中ではIRに関する具体的な規制が定められ、ギャンブル依存症対策、カジノ管理委員会の設置、入場に関する制限といったルールが決められています。
ギャンブル等依存症対策基本法成立
IR実施法と同時期に「ギャンブル等依存症対策基本法」が成立し、自治体はギャンブル依存症に関する予防・対策を国が定めた通りに行うことが定められました。
カジノ管理委員会発足
2020年、「カジノ管理委員会」が発足しました。内閣府の外局として置かれる行政委員会であり、カジノ事業者が不正を行っていないか、などカジノ規制の遵守状況を厳格に監査する場所となっています。
IR誘致に関する基本方針の策定
2020年末、IR誘致に関する基本方針の策定が行われました。これによりIRの候補地は最大で3ヶ所になることが決定されました。
IR候補地の認定〜IR区域整備計画の申請
基本方針が策定され、いよいよIR候補地に手を挙げる自治体が募集されることになりました。それぞれの自治体は2022年4月までに区域整備計画を申請し、どのような形でIRを開業・整備していくのかを国に示す必要があります。最終的に、大阪府・大阪市、そして長崎県が区域整備計画を申請しました。
区域整備計画の認定
2023年4月に大阪府・大阪市の区域整備計画が認定され、正式にIRが開業することが決まりました。
IR開発・開業
区域整備計画が認定された自治体は、事業者や開発を担う企業と協力し、IRの開発を行います。国の基準をクリアするIRの開発が完了した場合、日本にカジノを含む統合施設ができることになります。
カジノ法案の目的
それでは、日本にカジノを含む施設を作る理由は何なのでしょうか?以下の文章はIR推進法からの引用文となります。
第三条 特定複合観光施設区域の整備の推進は、地域の創意工夫及び民間の活力を生かした国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現し、地域経済の振興に寄与するとともに、適切な国の監視及び管理の下で運営される健全なカジノ施設の収益が社会に還元されることを基本として行われるものとする。
引用元: 特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案
つまり、日本にIRができることによって
- 国際競争力の高い魅力ある観光地が増える
- 地域経済を活性化させられる
- カジノ施設の収益を社会に還元できる
ため、政府はIRを推進していると考えられます。
高齢化が加速する日本において、社会保障費の増大により財政は悪化していく一方です。観光客を増加させる、地域経済を進行させる、カジノで収益を上げる、などにより日本の財政を改善させる目的があります。
カジノを誘致するメリット・経済効果
続いて、カジノ誘致のメリットについて解説します。IRはもちろんカジノの収益によって支えられる施設ではありますが、それ以上にIRが日本にあることにより、様々なプラスの効果が期待できます。
財政的に厳しい状況となっている状況で、IRにおける経済効果はどの自治体も大変期待していると言えるでしょう。
これらの経済効果も含め、IR誘致のメリットを詳しく解説します。
国内消費が増えて税収の増加が見込める
IRの大きなメリットは、IRが「滞在型施設」であることです。今まで、「ホテルに宿泊する」「ショッピングモールで買い物」「展示場で商談」と言ったことは全て別々の施設で行う必要がありました。
しかし、IRではホテル・国際展示場・商業施設・カジノなどが一体となっているため、旅行客一人あたりが使う金額が一般的な施設と比較して大きくなります。
そのため、滞在費用が大きくなるとIRの収益、ひいてはIRを運営する自治体への納付金・税収がアップし、自治体の財政が健全化することが見込まれます。
観光客増加による地域経済の活性化
IR整備法では、「12万平方メートル以上の展示場」と「6000人収容可能な国際会議場」がIR施設の中に用意されることが定められています。
これは、日本において最も大きい展示場である東京ビッグサイトよりも大規模な展示場を用意する必要があります。
今まで日本には存在しなかった規模のMICE施設を用意することによって、これまで開催できなかったレベルの国際会議を開催できると、より多くのイベントが日本で行われます。
来日者が多くなることで、国際的な地位が向上し、日本国の観光プロモーションに一役買うことが期待されます。
国内の観光客はもちろんですが、学会や国際会議などで訪れる旅行客は団体が多いので、より多くの金額がIRに落とされることは間違いありません。
観光客が増加し、その地域の観光需要が増えることにより、地域経済が活性化することが見込まれています。
雇用が創出される
IR施設は非常に大きいため、IRで働く従業員の数も並大抵のものではありません。例えば大阪IRでは、従業員の総数を15,000人と計算しています。
そのため、IR施設に就労する雇用者が増えて、その地域で働けない人々が少なくなります。
とはいえ、現在は特にサービス業で人手不足であることが社会問題となっており、安定した雇用の創出が見込めるかについては議論の余地があります。
地域のインフラ整備と公共サービスの向上
このような直接的なメリットの他にも、IRがあることによって副次的に発生するメリットは多くあります。
例えば、IR収入を活用することによって自治体の公共サービスが向上することが見込まれますし、国際展示場のような運営にリスクが伴う施設を民間が取り仕切ることによって、自治体の財政が悪化する心配もありません。
また、例えばIRの最寄りに駅を作る場合、周辺の駅からIRまで鉄道が延伸します。このように、IR施設の整備に伴って周辺のインフラも整備されます。
他にも、IRの利用者が周辺の観光地も利用することによる観光客の増加、国際的な施設を運営することによる国際人勢の育成など、IRがあることによるメリットは非常に多いと言えます。
カジノ法案のデメリット・リスク
続いて、IRを誘致することによるデメリットやリスクについて解説します。今まで日本になかったカジノ施設ということもあり、IR開業にあたって考えておくべき課題というのは多く存在します。
それらのデメリットや、実際に自治体はIRのリスクをどのように解決していこうと考えているのか、などについて詳しく解説します。
ギャンブル依存症患者が増える心配がある
最も懸念されているリスクは「ギャンブル依存症患者」が増える、という問題です。今でもギャンブル依存症に苦しんでいる日本人は少なくありません。
カジノ施設を増やすことによって、興味本位でギャンブルに手を出し新たに依存症患者が出てしまうのでは…と言ったデメリットがあります。
これに関してはIR実施法でもかなり重視されており、入場回数を制限する取り決めや、全ての自治体はギャンブル依存症をケアする体制を整えることが定められるなど、新たにギャンブル依存症患者を増やさない政策が実行されつつあります。しかし、まだ完璧というには程遠い状況です。
ただ、1万店近くのパチンコ・パチスロ施設が軒を連ね、競馬、競輪、競艇、宝くじにスポーツ振興くじなどギャンブルに溢れている日本において、厳格に管理されたカジノ施設がギャンブル依存症患者を急激に増加させるとは言い難いのではないか、という指摘もあります。
治安の悪化・犯罪の懸念
また、カジノ施設ができることによって治安が悪化したり、犯罪が増えるのではないか…というリスクも考えられています。
例えば、大きなパチンコホールの近くには必ずと言って良いほど消費者金融がありますよね?
このような、夜の繁華街に見られるような治安の悪化、そしてギャンブル施設を狙った反社会的勢力による犯罪が起きると言ったリスクをIRは抱えていると言えます。
IR実施法においては、警察の積極的なパトロールにおいて健全なIR施設を保持すること、本人確認を厳格化して反社会的勢力をカジノに入れないこと、カジノを取り仕切る事業者についても徹底的な調査を行い反社勢力が絶対に入り込まないこと、などが定められています。
また、世界のIRの調査によると、IRができる前と後において犯罪件数が増加したというケースは見受けられませんでした。
そもそもIRは今まで使われていない広い土地が必要になるので、例えば大阪IRだと「埋立地である夢洲にカジノができたところでどう治安が悪化するのか?」と言った指摘もあります。
地域経済への影響
IRは滞在型の施設なので、逆に言うと観光客はその場所以外に行かなくても観光の目的を十分達成できます。
そのため、例えばIRの近くにある飲食店が使われなくなったり、他の地域の鉄道路線があまり利用されなくなったりと、他の産業が衰退する可能性もあります。
この場合、地域経済へ悪影響を及ぼすことが考えられます。
また、IRが目論見通り成功するならば良いのですが、失敗してIRを撤退するなんてことがあると、周辺の土地全てが共倒れ…と言ったリスクを抱えているとも言えるでしょう。
カジノ法案を成功させるためにするべき措置
これまでの項目で見てきた通り、IRには様々なメリットや経済効果が期待されているものの、放置しておくと非常に問題になる重大なリスクがあることも分かります。
そこで、最後の項目として、現在大きな成功を収めているシンガポールのIRを例に、どのような対策を取ることでIRが成功に近付くのか、について詳しく見ていくことにします。
シンガポールでは、2004年に政府主導でカジノ施設が作られる構想が発表され、2005年には推進計画が決定、2010年にリゾート・ワールド・セントーサやマリーナベイ・サンズと言った施設がオープンしました。
どのようにしてIRが導入され、成功していったのかについて解説します。
ギャンブル依存症対策の徹底
シンガポールでは、ギャンブル依存症対策として「国家賭博問題対策協議会」や「国家依存症管理サービス機構」と言った組織を設立しました。
カジノ施設への予防教育を行ったり、医療機関におけるギャンブル依存症の治療などのサービスを行うことにより、「責任あるギャンブル(responsible gambling)」の推進に取り組んでいます。
また、国民は1日150シンガポールドルの入場料がかかること、21歳未満の立ち入りを禁止すること、カジノ施設内で銀行ATMを設置しないことなど、ギャンブル依存症対策を徹底させることによって、依存症患者を10年間で3分の1まで減らすことに成功しています。
入場排除プログラム
また、シンガポールでは「入場排除プログラム」という、ギャンブル依存症に悩む人やそのリスクが疑われる人に対して、カジノへの入場を禁止する仕組みが用意されています。
入場排除プログラムには3つの種類があり、1つ目は自分自身でカジノへの入場を禁止する「自己排除プログラム」、2つ目は配偶者・子供・親・きょうだいの入場を禁止する「家族排除プログラム」です。そして3つ目は、自己破産者、法的支援を受けている者、公的住宅の家賃を滞納している者の入場を禁止する「第三者排除プログラム」です。
これは自国民だけではなく外国人も利用できるシステムとなっているため、ギャンブル全体として依存率を低下させることができます。
適切な規制と監督体制の確立
シンガポールにおいては、3年に一度、カジノを取り仕切る事業者やゲーミング機器の製造を行う事業者などについて、以下のような審査を行っています。
- 社会的な信用を有すること(誠実さ、正直さ、善良さ等)
- 反社会的勢力との接点がないこと、前科がないこと等
- 資金源を含む財政状態
- 運営・経営能力、経験
- 法令順守の組織内体制 等
これらの審査をクリアした事業者のみライセンスが与えられ、カジノを運営することが許されます。
また、ゲーミングエリアの面積やスロットマシーンの台数に上限を設けるなど、適切な規制や監督を行うことによってカジノの不正を防いでいます。
与信規制・賭け金の上限額の設定
シンガポールでは、カジノ事業者がチップを貸し付けることができる「与信」の対象を制限しています。
外国人のプレイヤーに規制はありませんが、自国民の場合は10万シンガポールドル(約800万円)の現金をカジノ事業者に預け入れているユーザーに限ることが決められています。
また、ゲームルールについては規制当局が認可することが定められており、賭け金の上限金額についても適切に定められています。
このため、プレイヤーがゲームにのめり込んで大損…と言った状況を防ぐことができます。
地域社会とバランスをとる
シンガポールは以前もIR施設の誘致を計画していたものの、周囲の反対運動によりなかなか実現することはできませんでした。
2004年にIR構想が発表された際は、政治家との公開討論や反対運動の容認などにより議論を深め、次第に社会的合意を形成していくことに繋がりました。
現在シンガポールで稼働している2つのIRのうち、マリーナベイ・サンズは大規模なMICE施設を備えてビジネスパーソンをターゲットに、リゾート・ワールド・セントーサはユニバーサル・スタジオ・シンガポールなどの遊べる施設を備えて家族やレジャー層をターゲットに運営されています。
このように、周辺産業や地域経済とのバランスを考慮し、地域社会との協力体制を築くことがIR事業を成功させる一番のコツと言えるでしょう。
まとめ
カジノを含む統合型リゾート・IRは、国内外問わず観光客が増えて大きな経済効果が見込める、また地域雇用が創出されると言ったメリットがあるものの、ギャンブル依存症患者の増加、反社会的勢力の介入による治安の悪化、と言ったリスクを抱えています。
現在世界的に見ても成功していると言われるシンガポールのIRでは、ギャンブル依存症の徹底的な対策や適切な管理体制によって、カジノにおけるリスクを抑えつつ観光客を増加させることに成功しています。
日本においてもこれらの取り組みをブラッシュアップして適切に使っていくことにより、IRを成功させ財政の改善に繋げられる可能性が高くなると言えるでしょう。
Bell
(ウィナーズクラブ管理人)
日本にIR(統合型リゾート)ができた場合、どんなメリットやリスクがあるのかをまとめました。
大きな懸念点としてはギャンブル依存症への対策・ケア、地域産業と協力体制が得られるかがポイントとなります。